愛される少年。愛する男。男同士を嫉妬しながら少年を母のように抱く少女。そして、恋人を美少年の魅力から取り戻そうとする黄昏の女の破滅的な情炎。頽廃と純真の綾なす官能の世界を、言葉の贅を尽して描く表題作『恋人たちの森』。愛する少年を奪われる前に殺し、自らも息絶えた男の鮮烈な最期。禁じられた恋の光輝と悲傷を雪の武蔵野に綴る『枯葉の寝床』など、鬼才のロマン全4編を収録。 『枯葉の寝床』は講談社文芸文庫の方を読んでいたので、感想は省略。 『恋人たちの森』は美丈夫のギドウと美少年・パウロ(二人とも日本人。ギドウは日本と仏蘭西のハーフ)。この美男ふたりの完璧な愛人同志を巡って、二人の女性が振り回される話でした。 『枯葉の寝床』より、こちらの方がわかりやすくて楽しめたかな。 男が中心になる同性愛ものの小説に女が出てくるとウザくてかなわないんですけど、この小説は平気でした。 茉莉さんの文体のお陰でしょうか。 メインはギドウとパウロの二人なんですけど、この話は女性の存在感も印象に残ります。 同性愛志向の男に関わってしまった女の哀しさと、若い愛人に情人を奪われた中年女の惨めさと執着心がよく書けているのではないかと思いました。 物語の最後には“別れ”が待っているのですが、『枯葉の寝床』ほど悲壮で破滅的な感じはうけなかったかな。 (『枯葉の寝床』の最後は、あれはあれで幸せな結末だと思います) 個人的には、一作目の『ボッチチェリの扉』が良かったです。 ボッチチェリ随一の代表作『春(La Primavera)』をモチーフに描かれた中編小説です。 主人公の由里(ユリア)は、元・名家である田窪家の二階に下宿人として住まう事になります。 気難しいドケチな大家の老女・絵美矢、変わり者の自分とどこか似たところのある二男の沼二など、後から下宿に住む事になっただらしない女たちなど、クセのある人物が多々出てきます。 由里(ユリア)は、家主の令嬢・二女の麻矢が特に気に入りと見えて、彼女の恋愛遍歴が主人公の由里の繊細かつ鋭い観察眼を通して描写されていきます。 主人公の由里(ユリア)は、もう「森茉莉」以外の何者でもありません。 動く事が嫌いで空想・妄想好きで、それ文章にする才能があり、その文才が無ければ親の遺産や貯金など、あっと云う間に無くなっていたとか。珈琲店通いやチョコ、角砂糖、紅茶・緑茶の購入のために町に出る事を日課としているとか。図々しい下宿人が自分の部屋に押しかけてきても、追い返す言い方が分からず、結局相手をしてしまうとか。 このステキな変わり者が描写する麻矢の様子は褒め言葉だけなのに、大家の老女・絵美矢(麻矢の母)と下宿人の女たちには言いたい放題、容赦なく切って捨てています。 でも、悪口雑言を吐いている文章の方がイキイキしてて面白い。 前半は由里の下宿での生活と厄介な人物たちの様子が、後半部は、麻矢の恋愛を中心に語られていきます。 女として目覚めていく様子や、いくつかの失恋を経て辿り着いた愛。 麻矢というひとりの若い女性の姿が生き生きと描かれていて、目の前がキラキラと明るくなってくるみたいです。 『春』のような明るさに溢れている描写が続くので、最後はかなり衝撃を受けました。 ボッチチェリの『春(La Primavera)』に描かれているテーマをよくご存知の方なら、より深く『ボッチチェリの扉』を読解できるかもしれません。 麻矢が恋に目覚め、女としての知恵を身につけ、より洗練された女性へ変化していく姿と彼女が辿る運命は『春(La Primavera)』に秘められている謎と重なるように思います。 この絵を見ながら『ボッチチェリの扉』を読むと、 麻矢が真ん中のヴィーナス(アフロディーテ)かそれとも花の女神・フローラか? 向かって左端のヘルメスはパサデナか?それとも絵美矢かな?と思えてきます。 でも絵美矢は蒼白な顔にされているゼピュロス(向かって右端)かも? 冒頭部で絵美矢の事を“灰色の着物を幾重にも纏つけた感じでふわふわと、漂っていた”とか“家の暗さは彼女の気分が作り出している”と描写されていたので、不吉な顔をしたゼピュロスと暗い顔つきの絵美矢はイメージが重なる感じがします。 (これらはあくまでも個人的な感想なので、あしからず) ボッティチェリの『春(La Primavera)』には様々な解釈がされていますが、決定版と言える解釈はまだ存在していないそうです。 (10年程前に、イタリアで本物を見た時“おお…”と思うような解説をしてもらったのに、記憶がぼんやりで全く文章化できないのが悔しい…) ※『春(ラ・プリマベーラ)』の対画が『ヴィーナスの誕生』(アドビのイラレでおなじみ)です。 個人的には『春(ラ・プリマベーラ)』の方が好き。 恋人たちの森 (新潮文庫)〔森茉莉〕 ボッチチェリの扉 恋人たちの森 枯葉の寝床 日曜日には僕は行かない
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